口呼吸が口の中を乾かし、トラブルを招く。鼻で呼吸する習慣の取り戻し方

朝起きたら口の中がカラカラで、舌が上あごに張りついている。
そんな朝が続いていませんか。

歯科医師の大井美智子です。
その乾きは、眠っている間の口呼吸が原因かもしれません。

この記事では、口呼吸が口を乾かす仕組みと、そこから起こるトラブル、鼻呼吸を取り戻すための習慣をお伝えします。
鼻の通りを確かめ、舌と唇の使い方を見直せば、呼吸の癖は大人になってからでも変えられます。

口呼吸はなぜ口の中を乾かすのか

唾液は口の中を守る「天然の保湿液」

口の中は、本来いつも唾液でしっとり潤っています。
唾液は食べかすや細菌を洗い流し、細菌が増えるのを抑え、食事で酸性に傾いた口の中を中性に戻す働きをしています。
溶けかけた歯の表面を修復する「再石灰化」を助けるのも唾液の仕事です。

口を開けて呼吸すると、吸う息と吐く息のたびに、この唾液が口の表面から蒸発していきます。
休日に庭仕事をしていると実感するのですが、土は風が当たる面から先に乾き、乾いた土では根を守る微生物のバランスが崩れていきます。
口の中の細菌の集まり(口腔フローラ)も同じで、潤いを失った環境では、むし歯菌や歯周病菌のような困り者が勢いづきやすくなります。

眠っている間の口呼吸で、口の中は酸性に傾く

口呼吸の影響がもっとも大きいのは、眠っている時間です。
眠っている間はもともと唾液の量が減るうえ、自分で口を閉じ直すこともできません。

ニュージーランドのオタゴ大学の研究チームが2016年に発表した研究では、健康な10人の前歯の裏に小さなセンサーを付け、口の中の酸性度(pH)を眠っている間も測り続けました。
鼻クリップで口呼吸の状態をつくった夜は、口の中の平均pHが6.6で、ふだんどおり眠った夜の7.0より酸性に傾いていました。
睡眠が進むにつれてpHはゆっくり下がり、口呼吸の夜はその下がり幅が大きく、下がった状態も長く続いたそうです。

参加者が10人と少ない研究なので、これだけで結論を出すつもりはありません。
ただ、診療室で「朝の口のネバつきが気になる」とおっしゃる方の口を拝見すると、歯の根元のむし歯や歯ぐきの炎症が目立つことが多く、この研究の結果には実感として納得がいきます。

鼻は吸い込む空気を整えるフィルター

鼻の役割も見逃せません。
神奈川県歯科医師会の解説では、鼻には細菌やウイルス、アレルゲンなどが体内に入るのを最初に防ぐフィルターの役割があり、口呼吸ではその働きが十分に発揮されないと説明されています。

鼻の中は入り組んだ形をしていて、吸い込んだ空気はそこを通る間に温められ、湿り気を帯びてからのどへ向かいます。
口から吸うと、乾いた冷たい空気がそのままのどと口の粘膜に当たります。
冬の朝にのどがヒリヒリする方は、寝ている間に口が開いていないか疑ってみてください。

口の乾燥が招くトラブル

むし歯・歯周病・口臭

唾液が減ると、洗い流す力と細菌を抑える力が同時に落ちます。
主なトラブルを表にまとめました。

トラブル口呼吸で起こりやすくなる理由
むし歯口の中が酸性に傾いたまま戻りにくく、再石灰化が追いつかない
歯周病歯ぐきの表面が乾いて抵抗力が落ち、プラーク(歯垢)もこびりつきやすい
口臭細菌が増え、においの元になるガスが発生しやすい
口内炎・舌の痛み粘膜が乾いて傷つきやすくなる
カンジダ症乾燥が長く続くと、カビの一種であるカンジダが増えやすくなる

MSDマニュアル家庭版の「口腔乾燥」でも、昼間や夜間の口呼吸は口が乾く原因の一つに挙げられ、乾燥がむし歯や口臭、カンジダ症につながると書かれています。
丁寧に歯を磨いているのに、むし歯や歯周病がなかなか落ち着かない方は、呼吸のしかたに原因が隠れていることがあります。

前歯の歯ぐきだけが腫れるのはサイン

歯科医師として口呼吸を疑うきっかけになるのが、上の前歯の歯ぐきです。
口を開けていると、唇に覆われていない前歯の歯ぐきだけが空気にさらされて乾きます。
そのため、奥歯の歯ぐきは落ち着いているのに、前歯の歯ぐきだけが赤く腫れていたり、前歯の表面に着色が付きやすかったりします。

「磨き方が悪いのでしょうか」と肩を落とされる方もいますが、ブラシの当て方だけの問題ではない場合があります。
歯科医院で「前歯の歯ぐきが腫れていますね」と言われたら、呼吸についても相談してみてください。

入れ歯や飲み込みにも響く

年齢を重ねると、唇を閉じる力や舌の力が少しずつ弱まり、口がぽかんと開きやすくなります。
持病の薬の副作用で唾液が減る方も多く、口呼吸が重なると乾燥は一気に進みます。

口が乾くと、入れ歯が歯ぐきに吸い付かずに外れやすくなり、こすれて痛みも出やすくなります。
パサパサした食べ物が飲み込みにくくなり、話しにくさを感じる方もいます。
介護の現場で口を開けたまま眠っている方の口の中を拝見すると、舌が乾いてひび割れていることもあります。
飲み込む力の衰えは誤嚥性肺炎にもつながるため、高齢のご家族の口元にもぜひ目を向けてください。

まずは自分の呼吸を確かめる

口呼吸のサイン

口呼吸は無意識の癖なので、自分ではなかなか気づけません。
次のうち、いくつ当てはまるか数えてみてください。

  • 朝起きると口やのどがカラカラに乾いている
  • テレビやスマートフォンを見ているとき、唇が離れている
  • 唇を閉じると、あごの先に梅干しのようなしわが寄る
  • 唇がよく乾いて荒れる
  • 家族からいびきや、口を開けて寝ていると言われる
  • 舌の先が下の前歯の裏に触れている

二つ以上当てはまる方は、日中か夜間のどちらか、あるいは両方で口呼吸になっている可能性があります。
唇を閉じるとあごにしわが寄るのは、ふだん使っていない筋肉を無理に使って口を閉じている証拠です。
家族にお願いして、寝ている間の口元を一度見てもらうのも確実な方法です。

鼻がつまっているなら、先に耳鼻咽喉科へ

口呼吸を直そうとする前に、必ず確かめてほしいのが鼻の通りです。
片方ずつ鼻の穴を押さえ、口を閉じて静かに1分ほど呼吸してみてください。
息苦しくなる方は、鼻そのものに原因があるかもしれません。

アレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎、鼻の中の仕切りの曲がり(鼻中隔弯曲症)などで鼻がつまっていると、体は口から息をするしかありません。
その状態で口を閉じる練習をしても苦しいだけで、長続きしません。
鼻づまりが続いている方は、まず耳鼻咽喉科で診てもらいましょう。

大きないびきや、寝ている間に息が止まっていると指摘された方も、自己流の対策の前に医療機関に相談してください。
睡眠時無呼吸症候群が隠れている場合があり、その場合は治療が優先です。

鼻呼吸を取り戻すための日々の習慣

舌の置き場所「スポット」を覚える

鼻呼吸の土台になるのは、舌の位置です。
上の前歯の裏側から少し奥へ舌先を滑らせると、歯ぐきのふくらみの後ろに小さなくぼみがあります。
ここが「スポット」と呼ばれる舌の定位置で、舌先をここに置き、舌全体を上あごにぴったり付けておくのが正しい姿勢です。

舌が下の前歯の裏に落ちている「低位舌」の状態では、口が開きやすく、口呼吸にもなりがちです。
先ほどの神奈川県歯科医師会の解説では、舌を正しい位置に導く方法として「ガムトレーニング」が紹介されています。
やり方は、ガムを噛んで舌の上で丸め、そのガムを舌でスポットに押し当てて約3秒かけて広げるというもので、1日3分以上を目安にするとよいそうです。
シュガーレスのガムを選べば、唾液も出てむし歯の心配もありません。

あいうべ体操で口のまわりを鍛える

口を楽に閉じていられるようにするには、唇と舌の筋力が欠かせません。
よく知られているのが、福岡の内科医、今井一彰先生が考案した「あいうべ体操」です。

  • 「あー」と口を大きく開く
  • 「いー」と口を大きく横に広げる
  • 「うー」と唇を強く前に突き出す
  • 「べー」と舌を突き出して下に伸ばす

この4つで1セットとし、1日30セットが目安です。
考案者のみらいクリニックでは、食後に10セットずつ行うと続けやすいとしています。
声は出しても出さなくてもかまわないので、テレビを見ながらでもできます。

あごの関節に痛みがある方や、口を大きく開けると痛む方は、回数を減らすか「いー」と「うー」だけにしてください。
効果はすぐには出ないので、続け方の工夫が大切です。
私は患者さんに、洗面所の鏡の横に「あいうべ」と書いた紙を貼り、歯磨きのついでに行う方法をおすすめしています。

口がぽかんと開く場面に気づく

日中の口呼吸は、何かに集中しているときに起こりがちです。
パソコンやスマートフォンの画面をのぞき込む姿勢では、頭が前に出てあごが下がり、唇が自然に離れてしまいます。
背すじを伸ばして画面を目の高さに近づけるだけでも、口は閉じやすくなります。

とはいえ、無意識の癖を意識だけで直すのは難しいものです。
パソコンの画面の端や冷蔵庫の扉に小さな付箋を貼り、目に入るたびに「唇は閉じている?舌はスポットにある?」と確かめるのがおすすめです。
気づく回数が増えるほど、口を閉じた状態が体にとっての「ふつう」になっていきます。

寝ている間は加湿から。口テープは慎重に

眠っている間の対策は、まず寝室の環境から整えます。
MSDマニュアルでも、口呼吸による乾燥は夜間に悪化しやすく、加湿器が役立つとされています。
枕元に水を置き、夜中に目が覚めたら少し口を潤すのもよい方法です。
高い枕で首が前に曲がると口が開きやすいので、枕の高さも見直してみてください。

最近、寝るときに口にテープを貼る方法がSNSなどで話題になっています。
ただ、2025年に学術誌PLOS ONEに掲載された系統的レビューでは、10の研究(計213人)を調べた結果、口テープの効果を裏づける根拠はごく限られていると結論づけています。
鼻がつまっている状態で口をふさぐと、窒息の危険があるとも指摘されています。

鼻の通りが悪い方や、睡眠時無呼吸症候群が疑われる方は、口テープを使わないでください。
高齢の方や、ご自分でテープをはがしにくい方も同じです。
私自身は、テープで口をふさぐより、昼間に舌と唇を鍛えて自然に口が閉じる状態をつくるほうが、遠回りに見えて確実だと考えています。

まとめ

口呼吸を続けると、唾液が蒸発して口の中が乾き、むし歯や歯周病、口臭が起こりやすくなります。
眠っている間はとくに影響が大きく、口の中が酸性に傾いた状態が長く続きます。

鼻呼吸を取り戻すには、まず鼻の通りを確かめ、つまりがあれば耳鼻咽喉科で治療を受けることから始めてください。
そのうえで、舌をスポットに置く習慣とあいうべ体操で口を閉じる力を育て、日中の姿勢や寝室の環境も整えていきます。

呼吸の癖は何十年もかけて身についたものなので、数日で変わるものではありません。
庭の土も、水やりと手入れを続けて少しずつ豊かになります。
焦らず、今日の食後に「あいうべ」を1セットやってみるところから始めてみませんか。
前歯の歯ぐきの腫れや朝の乾きが気になる方は、かかりつけの歯科医院で遠慮なく相談してください。