詰め物・被せ物が取れた!慌てないための応急対応と、やってはいけないこと

食事中に「カリッ」と妙な感触があって、口から銀色のかけらが出てくる。
あの瞬間の、なんとも言えない気持ちはよく分かります。
歯科医の大井美智子です。

詰め物や被せ物が取れても、その場で何かを施す必要はありません。
むしろ、慌てて手を出したせいで歯を余計に失う方を、私は何度も診てきました。
取れた直後にすべきこと、避けたい行動、そして何日以内に歯科医院へ行けばいいのかの目安を、順にお伝えします。

取れた直後にすること、順番に

まずは深呼吸をひとつ。
詰め物や被せ物が外れること自体は、歯科の世界ではごくありふれた出来事です。
問題になるのは外れたことではなく、そのあとの数日をどう過ごすかのほうなのです。

取れたものは、捨てずにとっておく

いちばん多い「もったいない事故」が、洗面台で流してしまうことです。
外れたものは、水でさっとすすぐ程度にとどめてください。
消毒液に浸けたり、こすり洗いをしたりする必要はありません。

保管はチャック付きの小袋か、フィルムケースのような小さな容器が向いています。
ティッシュに包むのはおすすめしません。
診療室で「持ってきました」と言われて開けてもらったら中身が空っぽ、ご家族がゴミと思って捨てていた、という場面が本当にあるのです。

乾燥させると、付いている古いセメントがはがれて形がわずかに変わることがあります。
気になる方は、少量の水と一緒に容器へ入れておくと安心です。

鏡で口の中を確かめる

次に、明るいところで取れた場所を見てください。
確認したいのは、削られた歯の土台が残っているか、縁が鋭く尖っていないか、そして歯ぐきから出血していないかの三点です。

痛みがまったくないケースも珍しくありません。
神経を取ってある歯なら、外れても本人は無自覚で、鏡を見て初めて気づくこともあります。
痛くない=軽症とは限らないので、そこは切り離して考えてください。

飲み込んでしまったときの考え方

食事中に外れると、そのまま飲み込んでしまうことがあります。
日本歯科医師会が運営するテーマパーク8020「つめ物・かぶせ物が取れた 飲み込んだ」では、飲み込んだ場合はすぐにかかりつけの歯科医院に連絡すること、ただし呼吸に異常を感じる場合はすぐ耳鼻咽喉科を受診することが示されています。

詰め物ほどの大きさであれば、多くは数日で便とともに体の外へ出ていきます。
歯科用の金属は体内で溶け出すようなものではありませんから、そこは過度に心配しなくて大丈夫です。
ただし、激しい腹痛が出た場合と、むせ込みや息苦しさが続く場合は話が別で、前者は消化管を傷つけている可能性、後者は気管に入った可能性を疑います。

慌てたときほどやりがちな、避けてほしい行動

ここからが本題です。
取れたこと自体より、そのあとの自己流の処置のほうが、歯にとってはよほど危険です。

市販の接着剤で自分でくっつける

これがいちばん困ります。
瞬間接着剤やエポキシ系の接着剤は、口の中で使うことを想定して作られていません。
硬化するときの成分が粘膜や神経を刺激しますし、そもそも唾液で濡れた面ではきちんと付きません。

もっと厄介なのは、歯の表面に残った細菌を接着剤で封じ込めてしまう点です。
外から見えないまま内部で虫歯が進み、数か月後に強い痛みで来院され、神経を取る羽目になった方がいました。
そのうえ固まった接着剤を落とすには健康な歯質まで削る必要が出てくるので、失うものが二重になってしまうのです。

歯科医院で使うセメントは、歯質と結合する成分や、細菌の繁殖を抑える成分を含んだ医療用の材料です。
見た目が似ているだけの別物だとお考えください。

外れたものを自分で口の中に戻す

「食事のときだけ、そっと乗せておく」という方もいらっしゃいます。
気持ちは分かるのですが、これも避けてください。

固定されていない被せ物は、噛んだ拍子にずれます。
ずれた状態で力がかかれば歯が欠けますし、就寝中に外れて気管に入れば、飲み込むよりずっと厄介なことになります。
どうしても見た目が気になる前歯であれば、その日のうちに歯科医院へ連絡して仮の歯を作ってもらうほうが早くて安全です。

気になって舌や指で触り続ける

外れたあとの歯は、表面がざらざらしていて、舌がどうしてもそこへ行きます。
一日中触っていると、舌の先が傷ついて痛みが出ますし、指で触れば手指の細菌を露出した象牙質に運ぶことになります。
気になるときは、そこを避けて反対側で舌を休ませるくらいの意識で過ごしてください。

痛くないからと様子を見続ける

「痛くなったら行こう」という判断が、いちばん高くつきます。
外れた部分の歯は、エナメル質を削ったあとの象牙質がむき出しの状態です。
そこは表面がやわらかく、細菌が入り込みやすいため、虫歯の進み方が普段の歯とは比べものになりません。

さらに、噛み合う相手を失った歯は少しずつ動きます。
隣の歯が傾き、噛み合っていた上の歯が伸びてくると、せっかく取っておいた詰め物がもう入らなくなります。
数日の放置が作り直しを招き、作り直しが型取りと二回の通院を招く、という順番です。

受診までの過ごし方

すぐに歯科医院へ行ければ理想ですが、仕事や家庭の予定はそう都合よく空きません。
数日を無事にやり過ごすためのコツをまとめます。

噛む場所を変える、でも歯みがきはやめない

外れた側では硬いものを噛まないでください。
おせんべい、フランスパン、ナッツ、氷あたりは、その数日だけお休みにしましょう。
ガムやキャラメルのような粘着性のあるものも、隣の詰め物まで連れて行ってしまうので避けたいところです。

一方で、歯みがきは絶対にやめないでください。
「触ると悪い気がして磨かなかった」という方がときどきいらっしゃるのですが、むき出しの象牙質にプラークが乗り続けるのは、虫歯にとって最高の環境です。
やわらかめの歯ブラシで、力を抜いて、いつもどおり磨いてください。

しみる、うずくときにできること

冷たい水や風でしみるのは、象牙質が露出しているサインです。
ぬるま湯でうがいをする、しみる側で息を吸い込まないようにする、それだけでもだいぶ違います。

痛みがあるときは、市販の解熱鎮痛薬を用法どおりに使っていただいてかまいません。
やってはいけないのは、痛む歯やその歯ぐきに薬を直接押し当てることです。
昔からある民間の方法ですが、粘膜がただれて別の痛みが増えるだけで、良いことはひとつもありません。

何日以内に行けばいいのか

目安を整理しておきます。

状態受診の目安
痛みなし、詰め物も手元にあるできれば2〜3日以内、遅くとも1週間以内
しみる、噛むと違和感がある2〜3日以内
ズキズキする痛みがあるできるだけ早く、当日か翌日
腫れ・発熱がある当日中に連絡
飲み込んで、むせ込みや息苦しさがあるすぐに医療機関へ

「1週間以内」という数字を甘く見ないでください。
外れたものをそのまま付け直せるかどうかは、この期間でかなり変わります。

すぐに連絡したほうがいいサイン

なかには、のんびり構えていられないケースもあります。
次のような状況なら、予約の空きを待たずに電話をしてください。

取れたものの内側に、歯のかけらがくっついている

外れた被せ物をひっくり返して、内側に白いものや黒っぽい塊が付いていたら要注意です。
それは古いセメントではなく、歯そのものが一緒に折れて外れた可能性があります。
この場合は付け直しでは済まず、残っている根の状態を調べたうえで治療方針を立て直すことになります。

強い痛み、歯ぐきの腫れ、発熱

外れた歯の周りが腫れている、頬まで腫れぼったい、微熱があるといった状態は、根の先で感染が起きているサインかもしれません。
ここは自然に治まるのを待つ場面ではないので、当日中に連絡してください。

飲み込んだあとの咳、息苦しさ、胸の違和感

飲み込んだつもりでも、実際には気管のほうへ入っていることがあります。
むせ込みが続く、息を吸うとヒューヒュー鳴る、胸に違和感が残るときは、歯科ではなく耳鼻咽喉科や救急の領域です。
迷ったら、まず呼吸を優先して判断してください。

なぜ取れたのかで、そのあとの治療は変わる

患者さんからよく聞かれるのが「これ、また付けるだけで済みますか」という質問です。
答えは原因によって変わります。

セメントが年月で劣化していた

もっとも多いパターンです。
歯科用セメントは口の中で長年、噛む力と唾液にさらされ続けます。
少しずつ溶けて薄くなり、限界を超えたところで外れる、という経過をたどります。

この場合は歯そのものが健康なことが多く、清掃して付け直すだけで済みます。
外れた詰め物を持参する価値がいちばん高いのも、このケースです。

内側で虫歯が進んでいた

詰め物と歯の境目から細菌が入り、内部で広がる虫歯を二次う蝕と呼びます。
外れた面が黒く軟らかくなっていたら、まずこれを疑います。

先ほどのテーマパーク8020でも、詰め物が取れる原因の筆頭として二次う蝕が挙げられています。
虫歯を取り切ってから型を取り直すことになるので、通院回数は増えます。
それでも、封じ込めて放置するより結果はずっと良くなります。

噛む力や歯ぎしりの影響

日中の食いしばりや就寝中の歯ぎしりがある方は、外れる頻度がはっきり高くなります。
接着が悪いのではなく、接着の限界を超える力が毎日かかっているのです。

こういう方には、付け直したあとにナイトガードをおすすめすることがあります。
装置そのものが治療というより、修復物と歯を長持ちさせるための保険のようなものだとお考えください。

歯そのものが割れている

いちばん厳しいのがこれです。
とくに神経を取った歯は水分を失って弾力が落ちるため、割れやすくなります。

公益財団法人8020推進財団の第2回 永久歯の抜歯原因調査報告書によると、歯を抜く原因は歯周病が37.1%、むし歯が29.2%で、三番目に多いのが歯の破折で17.8%を占めています。
抜歯のおよそ6本に1本が、割れたことによるものという計算です。
被せ物が外れたときにヒビが見つかるのは、決して珍しい話ではありません。

歯科医院では、どんな治療になるのか

来院すると、まず外れた部位を診て、必要に応じてレントゲンを撮ります。
そのうえで、大きく次の三通りに分かれます。

そのまま付け直せるケース

外れた詰め物に破損がなく、歯側も虫歯になっていない場合は、内面の古いセメントを落として洗浄し、新しいセメントで再装着します。
一回の受診で終わることがほとんどです。

ただし、これが成り立つのは早く来ていただけたときに限ります。
歯が動いてしまったあとでは、同じものはもう収まりません。

作り直しになるケース

虫歯が見つかった、歯が欠けた、詰め物が変形しているといった場合は作り直しです。
虫歯を取り、形を整え、型を取り、次回に装着という流れになります。

この段階で、素材を考え直す方も多いです。
金属からセラミックやハイブリッドレジンに変えれば費用は上がりますが、境目の適合が良くなる分、二次う蝕のリスクは下げられます。

費用と通院回数の目安

保険診療で3割負担の場合の、おおまかな目安をお示しします。

処置の内容費用の目安通院回数
外れたものの再装着数百円〜1,500円程度1回
小さな虫歯を削って詰め直す1,000〜2,500円程度1〜2回
詰め物(インレー)の作り直し2,500〜4,000円程度2回
被せ物(クラウン)の作り直し4,000〜7,000円程度2〜3回
根の治療からやり直す5,000〜10,000円程度4〜6回

金額は検査やレントゲンの有無、歯の部位によって変わります。
正確なところは受診先で確認してください。
ここで見ていただきたいのは絶対額よりも、早く行くほど回数もお金も少なくて済むという傾向のほうです。

同じことを繰り返さないために

外れた歯を直したら、そこで終わりにせず、次の十年を考えたいところです。

修復物には寿命がある

意外に知られていないのですが、詰め物や被せ物は一生ものではありません。
口腔衛生学会雑誌に掲載された臼歯部修復物の生存期間に関連する要因(青山貴則ほか、2008年)では、札幌市内の歯科医院で治療を受けた95人・649歯を追跡し、次のような結果が報告されています。

修復物の種類平均生存期間10年生存率
メタルインレー約10年5か月67.5%
コンポジットレジン約9年8か月60.4%
4/5冠約9年2か月60.5%
メタルクラウン約9年55.8%
メタルブリッジ約7年31.9%

十年たつと、三分の一から半分近くが何らかのやり直しに至っている計算になります。
そして同じ研究では、再治療の主な理由が二次う蝕であること、噛み合わせの状態が生存期間に関わることも示されました。

つまり、外れたのはあなたの不注意のせいではないことが多いのです。
私はこの数字を、患者さんに「そろそろ点検の時期ですよ」とお伝えするときの根拠として使っています。

外れる前に見つける

十年前後で寿命が来るものなら、切れる前に気づけばいいわけです。
定期検診では、次のようなところを見ています。

  • 詰め物と歯の境目に段差やすき間ができていないか
  • 探針が引っかかる軟らかい部分がないか
  • レントゲンで内側に影が写っていないか
  • 噛み合わせの当たりが一点に集中していないか
  • 歯ぎしりによる摩耗や、修復物のふちの欠けがないか

外れる前に見つかれば、まだ歯を削る量が少ないうちにやり直せます。
半年に一度、忙しい方でも年に一度は、点検の予定を入れておいてください。

素材そのものを見直す

同じ場所の詰め物が何度も外れるなら、材料と設計を変える相談をしてもいいと思います。
接着性の高いレジンセメントで固定できる素材に替える、噛む力が強い方には割れにくい材料を選ぶ、といった方法があります。

補綴治療の考え方は、公益社団法人日本補綴歯科学会の補綴歯科ってどんな治療?にも一般向けにまとめられています。
選択肢を知ったうえで担当医と話すほうが、納得のいく結論にたどり着きやすくなります。

まとめ

詰め物や被せ物が取れたときにすべきことは、そう多くありません。
外れたものを乾かさずに保管し、その歯で噛むのを控え、いつもどおり磨きながら、数日以内に歯科医院へ連絡する。
やってはいけないのは、市販の接着剤で付けること、自分で口に戻すこと、そして痛くないからと先延ばしにすることです。

庭の手入れをしていると、根が傷んだ株ほど、地上部が元気に見えることがあります。
歯もよく似ていて、表面が静かなときほど中で何かが進んでいるものです。
外れた歯は、口の中があなたに向かって出してくれた数少ないお知らせだと思って、どうか早めに歯科医院の扉を叩いてください。