引っ越し先で歯科医院を探そうとして、駅前だけで何軒も看板が並んでいることに戸惑った方は多いと思います。
歯科医師の大井美智子です。
神奈川の総合歯科医院で30年以上診療してきた立場から、受診前、初診の日、通い始めてからの3つの場面で見てほしいポイントを、内側の目でお伝えします。
いい歯医者かどうかは、腕前だけでなく、長く付き合えるかどうかで決まると私は考えています。
目次
歯科医院はコンビニより多い。だから選ぶ目が要る
全国におよそ6万5千の歯科診療所がある
厚生労働省の「令和7年医療施設(動態)調査」によると、2025年10月1日時点の歯科診療所は65,624施設でした。
日本フランチャイズチェーン協会の統計では、2026年4月のコンビニの店舗数が56,125店ですから、時点の違いはあるものの、歯科医院のほうが9千ほど多いことになります。
歯科診療所は1年で754施設減っていますが、それでも徒歩圏内に何軒もあるのが当たり前の状況です。
選択肢が多いのは、患者さんにとってありがたいことです。
その一方で、看板やホームページだけでは違いがわかりにくく、なんとなく決めてしまいがちでもあります。
「家から近い」で選ぶのは、実は悪くない
意外に思われるかもしれませんが、通いやすさは立派な選ぶ理由です。
歯の治療は何回かの通院が必要ですし、治療が終わった後も、定期健診で何年も通い続けることになります。
遠くの名医に年に一度通うより、近くの歯科医院に3か月ごとに通うほうが、歯を守るうえでは役に立つことが多いのです。
ただし、近さだけで決めてしまうと、合わない医院に当たったときに気づけません。
以下のポイントを、候補を絞るものさしとして使ってみてください。
受診する前に確かめておきたいこと
ホームページは「言い過ぎていないか」を見る
医療機関のホームページは、2017年の医療法改正以降、広告と同じように規制の対象になっています。
国が定める医療広告ガイドライン(最新の改正は2026年3月)では、うそや大げさな表現、他院より優れていると強調する表現、患者の体験談などが禁じられています。
詳しくは厚生労働省の医療広告規制のページにまとめられています。
ホームページを見るときは、次のような表現がないかを確かめてください。
- 「絶対に痛くない」「必ず治る」と言い切っている
- 「地域No.1」「日本一」など、他院より優れていると強調している
- 根拠を示さずに、成功率や満足度の数字を出している
- 「即日」「1日で完了」など、その後の通院やメンテナンスに触れていない
- 治療効果の感想を並べた「患者さまの声」がある
- 費用やリスクの説明がないまま、治療前後の写真を載せている
厚生労働省の事例解説書には、歯科の例として「即日インプラント」や、根拠を示さない「成功率97.5%」が違反の例として挙げられています。
反対に、自費診療のページに費用、治療期間、通院回数、リスクや副作用がそろって書かれていれば、誠実に情報を出そうとしている医院だと判断できます。
なお、口コミサイトの投稿は医療広告の規制の外にあり、内容が正しいとは限りません。
私が見るなら、星の数よりも「検査の結果を見せながら説明してくれた」といった具体的な書き込みがあるかどうかです。
「専門医」は、認定した団体名を確かめる
ホームページに「○○専門医」とあると、それだけで安心したくなります。
ただ、広告で名乗れる歯科の専門医は決まっていて、日本歯科専門医機構が認定する口腔外科、歯周病、歯科麻酔、小児歯科、歯科放射線、補綴歯科、矯正歯科、歯科保存の8領域と、経過措置として認められている一部の学会の資格に限られます。
広告では認定した団体名を書くことになっていて、団体名のない「○○専門医」は誇大な広告、「厚生労働省認定○○専門医」はうその広告として扱われます。
その先生が常勤か、月に数日だけ来る非常勤かも確認しておくと安心です。
とはいえ、虫歯や歯周病の治療、定期的なメンテナンスであれば、専門医の資格がない一般の歯科医でも十分に対応できます。
私自身もずっと一般歯科医として診療してきました。
専門医は、難しい治療が必要になったときに頼る先として覚えておけば十分です。
公的な検索サービス「ナビイ」で候補を絞る
厚生労働省は、全国の医療機関を探せる医療情報ネット(ナビイ)を2024年4月から運用しています。
歯科診療所に絞って、場所や診療日、専門医の有無、バリアフリー対応などの条件で検索できます。
ナビイの情報は、医療機関が都道府県に報告した内容をそのまま公表したもので、第三者が評価したものではありません。
口コミのような評判はわかりませんが、診療時間や対応できる内容を公平に見比べるには便利です。
初診の日に、内側の目で見てほしいところ
いきなり削らず、まず話を聞いて調べてくれるか
初診で私がいちばん大切にしてきたのは、患者さんの話を聞くことです。
どこが、いつから、どんなふうに困っているのか。
持病や飲んでいる薬、これまでの治療で嫌だったことまで聞いておくと、その後の治療がずっと進めやすくなります。
強い痛みがあれば、その日のうちに応急処置をすることはあります。
それ以外の場合に、問診もそこそこにレントゲンや歯ぐきの検査をせず削り始める医院は、少し慎重に考えたほうがよいでしょう。
治療の選択肢と、それぞれの費用まで説明してくれるか
厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」では、ほかの治療法がある場合はその内容と利点・欠点を説明すること、患者の負担する費用が大きく違う場合はそれぞれの費用も説明することが求められています。
たとえば奥歯の被せ物なら、保険の金属や白い樹脂の被せ物と、自費のセラミックとで、見た目や持ち、費用がどう違うのかまで聞けるのが本来の姿です。
保険の選択肢に触れずに自費の治療だけを勧める、質問すると面倒そうな顔をする、という場合は、ほかの医院の意見も聞いてみる価値があります。
待合室の掲示と、器具の扱いを見る
衛生管理は、患者さんの目でも意外と確かめられます。
保険診療の決まりでは、院内感染対策の基準を満たした医院は、その取り組みを院内に掲示し、原則としてホームページにも載せることになっています。
| 見る場所 | 確かめたいこと |
|---|---|
| 待合室の掲示 | 院内感染対策や医療安全の取り組み、AEDの備えが掲示されているか |
| 診療台 | 器具が患者ごとに袋から出されるか、手袋を患者ごとに替えているか |
| 診療台のまわり | 歯を削るときに飛び散る細かなものを吸い取る装置があるか |
| ホームページ | 院内の掲示と同じ取り組みが載っているか |
掲示を探すのは少し気恥ずかしいかもしれませんが、待ち時間に壁を眺めるだけで十分です。
通い始めてわかる「長く付き合える歯医者」
治療が終わったあとの定期健診を勧めてくれるか
令和6年の歯科疾患実態調査では、4mm以上の歯周ポケットがある人は47.8%で、厚生労働省はおよそ2人に1人が中等度以上の歯周病にかかっていると整理しています。
8020推進財団の2018年の調査では、永久歯を抜く原因の37.1%が歯周病、29.2%が虫歯でした。
どちらも痛みが出る前に見つけられる病気ですから、治療が終わったら「では次は3か月後に」と定期健診の予定を組んでくれる医院は、歯を長く守ることを考えている医院です。
日本歯科医師会も、かかりつけ歯科医の役割として、年代に合わせた継続的な管理と重症化の予防を挙げています。
なお、ホームページで見かける「口腔管理体制強化加算」は、予防や継続管理の実績などの要件を満たして届け出たという意味で、国が特別に認定したものではありません。
医院選びの目安のひとつ、くらいに受け止めておいてください。
セカンドオピニオンを嫌がらないか
抜歯やインプラントのように後戻りのできない治療を勧められたら、別の歯科医の意見を聞きたくなるのは自然なことです。
保険診療にも、セカンドオピニオンのために検査結果やレントゲン画像をまとめた資料を渡す仕組みがあります。
私も相談されれば、資料をそろえて気持ちよく送り出すようにしてきました。
ほかの意見を聞きたいと伝えたときの反応は、その医院の自信と誠実さを映します。
30年診てきた私が、こっそり見ているところ
歯科衛生士さんが長く勤めているか
歯科医院の居心地は、院長ひとりでは決まりません。
定期健診で毎回同じ歯科衛生士さんが担当してくれると、前回からの歯ぐきの変化に気づいてもらいやすくなります。
受付や歯科衛生士さんの顔ぶれが何年も変わらない医院は、働く人にとっても居心地がよく、それは患者さんへの接し方にも表れるものです。
「うちでは難しい」と言えるか
親知らずの難しい抜歯や、全身の病気を抱えた方の治療など、ひとつの医院でできることには限りがあります。
できないことを正直に伝え、大学病院や口腔外科の専門医につないでくれる歯科医は、私の目から見ていちばん信頼できる歯科医です。
何でも「うちでできます」と引き受ける医院よりも、紹介先を持っている医院のほうが、結果的に患者さんを守れると感じています。
まとめ
歯科医院はコンビニより多く、選択肢が多いぶん、選ぶ目が必要です。
受診前には、ホームページが言い過ぎていないか、専門医の表記に団体名があるかを確かめ、ナビイで候補を絞ってみてください。
初診の日は、話を聞いて検査をしてから治療に入るか、選択肢と費用まで説明してくれるか、衛生管理の掲示や器具の扱いはどうかを見ます。
通い始めてからは、定期健診を勧めてくれるか、セカンドオピニオンや紹介に前向きかが、長く付き合えるかどうかの分かれ目です。
いい歯医者は、どこかにいる名医というより、あなたの話を聞き、あなたの歯を何十年も一緒に見守ってくれる人です。
気になることがあれば、遠慮せずに質問してみてください。
その質問への答え方こそが、何よりの判断材料になります。