毎日しっかり磨いているのに、歯科医院で「磨き残しがありますね」と言われて、がっかりしたことはありませんか。
歯科医師の大井美智子です。
30年以上診療室に立ってきた実感として、磨き残しの多くは、力や時間の不足よりも、磨く順番が決まっていないことから生まれます。
この記事では、磨き残しやすい場所と、私が診療室でお伝えしている「一筆書き」の順番、あわせて見直したい歯ブラシの当て方をご紹介します。
目次
磨き残しは、いつも同じ場所にできる
歯ブラシが届きにくい場所は決まっている
歯垢(プラーク)が残りやすい場所には、はっきりした傾向があります。
8020推進財団は、歯と歯の間、歯と歯ぐきの境目、奥歯の噛み合わせの溝を「歯垢のたまりやすいところ」として挙げ、ていねいに磨く人でも毛先が届きにくい場所だとしています。
診療室で歯垢を染め出してみると、次のような場所が赤く残っていることがよくあります。
- 歯と歯の間
- 歯と歯ぐきの境目
- 奥歯の噛み合わせの溝
- 上下の奥歯の裏側(舌側)
- いちばん奥の歯の、さらに後ろ側
- 歯並びが重なって、でこぼこしている部分
2023年に日本保健科学学会誌に掲載された成人12名の研究でも、利き手で磨いたときの歯垢の減少率は、奥歯の頬側で約7〜9割だったのに対し、奥歯の裏側では4割前後にとどまっていました。
人数の少ない研究ではありますが、私の臨床の実感ともよく重なる結果です。
気分で磨くと、毎回同じ場所を飛ばしてしまう
磨き残しが毎回同じ場所にできるのは、磨き方がその日の気分で決まっているからです。
多くの方は目に入りやすい前歯から磨き始め、そこにたっぷり時間をかけます。
奥歯にたどり着くころには手が惰性で動いていて、裏側はさっと撫でるだけで終わってしまうのです。
休日に庭の水やりをしていると、これとよく似たことが起こります。
ホースを持って気の向くまま水を撒くと、手前の鉢ばかりがびしょ濡れになり、奥の鉢はいつも乾いたままです。
歯磨きも同じで、順路を決めずに磨くと、届きにくい場所が毎回置き去りになります。
日本歯科医師会も、磨き始める順番をきちんと決め、一筆書きをするように順序よく歯ブラシを動かすことを勧めています。
順番が決まっていれば、どこまで磨いたかを考えずに済み、そのぶん毛先の当たり方に気持ちを向けられます。
歯科医がすすめる「一筆書き」の順番
スタートは磨きにくい奥歯から
磨き始めは、いちばん磨きにくい奥歯にします。
集中力があるうちに難所を片づけてしまおう、という考え方です。
8020推進財団の歯みがきの手引きでも、むし歯になりやすい奥歯から始めるルートが紹介されています。
なかでも、利き手と同じ側の奥歯は手首をひねる角度がきつく、磨きにくいものです。
先ほどの研究でも、歯垢がいちばん残っていたのは、磨く手と同じ側の下の奥歯の裏側でした。
右利きの方なら右の奥歯から始めると、後回しにして手を抜くことがなくなります。
外側から内側へ、上から下へぐるりと一周
私が患者さんにおすすめしている順番は次のとおりです。
右利きの方を例にしていますので、左利きの方は左右を入れ替えてください。
- 上の歯の外側を、右奥から左奥へ
- そのまま裏に回り、上の歯の内側を左奥から右奥へ
- 下に降りて、下の歯の内側を右奥から左奥へ
- 表に回り、下の歯の外側を左奥から右奥へ
- 上下左右の奥歯の噛む面を、溝に毛先を入れるように
- 最後に、いちばん奥の歯の後ろ側と、歯並びのでこぼこした部分
外側と内側を行ったり来たりせず、ひとつの面を端から端まで進んでから折り返すのがコツです。
途中で歯ブラシを口から出さないつもりで動かすと、自然に一筆書きになります。
前歯の裏と奥歯の後ろは、歯ブラシを縦に
順番を決めても、歯ブラシの角度が合っていなければ毛先は届きません。
当て方を変えたい場所を表にまとめました。
| 場所 | 当て方のコツ |
|---|---|
| 前歯の裏側 | 歯ブラシを縦にして、柄に近い側の毛で1本ずつかき出す |
| 奥歯の裏側 | 口を大きく開け、歯ブラシを斜めに差し入れる |
| 上の奥歯の外側 | 口を閉じ気味にすると頬がゆるみ、毛先が入りやすい |
| いちばん奥の歯の後ろ | 歯ブラシのつま先を立てて、後ろの面に当てる |
| 歯並びのでこぼこ | 歯ブラシを縦にして、1本ずつ磨く |
電動歯ブラシでも、順番の考え方は同じ
電動歯ブラシを使っている方から「機械に任せているから順番は関係ない」という声を聞くことがあります。
けれども、ブラシが勝手に口の中を巡ってくれるわけではありません。
厚生労働省の健康情報サイトでも、電動歯ブラシは磨き残しのないよう順番に当てていき、1か所に数秒当てたら隣へずらす使い方が紹介されています。
電動歯ブラシは手で細かく動かさなくてよいぶん、ブラシを当てる場所と順番に気持ちを集中できます。
上で紹介した一筆書きの順路を、そのまま電動歯ブラシでなぞってみてください。
順番と一緒に見直したい、歯ブラシの当て方
鉛筆を持つように、軽い力で
歯ブラシは、鉛筆を持つように指先で軽く持つ「ペングリップ」がおすすめです。
手のひらで握り込むと、どうしても力が入りすぎます。
力の目安を150〜200g程度としている自治体の歯科保健資料もあり、毛先が広がらない程度の軽さです。
一度キッチンスケールに歯ブラシを押し当ててみると、思っていたよりずっと軽い力だと驚かれるはずです。
強く磨くほどきれいになる、というのは誤解です。
力を入れると毛先が寝てしまい、かえって歯と歯ぐきの境目に届かなくなります。
歯ぐきが下がったり、歯の根元がくさび状にすり減ったりする原因にもなります。
新しい歯ブラシの毛先が1か月もたずに広がってしまう方は、力が強すぎるサインと考えてください。
毛先は歯と歯ぐきの境目に、小刻みに
毛先の当て方は、歯ぐきの状態によって使い分けます。
日本歯科医師会が紹介している代表的な2つの方法は次のとおりです。
| 方法 | 毛先の当て方 | 向いている人 |
|---|---|---|
| スクラッビング法 | 歯の外側は毛先を歯面に直角に、内側は45度に当てる | 歯ぐきが健康な人 |
| バス法 | 外側も内側も、毛先を歯と歯ぐきの境目に向けて45度に当てる | 歯ぐきに炎症がある人 |
どちらも、軽い力で数ミリの幅を小刻みに動かし、1〜2本ずつ進めるのが基本です。
大きくゴシゴシ動かすと、歯の出っ張った部分にしか毛先が当たりません。
シャカシャカと音が立たないくらいの細かさを意識すると、ちょうどよい動きになります。
歯ブラシのあとの「仕上げ」までが順番です
歯と歯の間は、フロスや歯間ブラシに任せる
どれほど上手に磨いても、歯と歯の間は歯ブラシだけでは取りきれません。
1975年に日本歯周病学会会誌に掲載された研究では、歯と歯の間の歯垢は歯ブラシだけでは58%しか除去できず、デンタルフロスを加えると86%、歯間ブラシを加えると95%まで取れたと報告されています。
成人10名を対象にした古い研究ですが、歯間清掃の効果を数字で示したものとして、今も歯科の世界でよく引用されています。
すき間の狭いところにはデンタルフロス、すき間の広いところには歯間ブラシが向いています。
歯ブラシの前に歯間清掃を済ませる方法をすすめる専門家もいて、どちらが先でもかまいません。
私自身は「歯ブラシの後にフロス」と決めて、一筆書きの最後の一画にしています。
歯磨き粉は大人用の濃度で、すすぎは少なめに
順番の締めくくりに、フッ化物(フッ素)を歯の表面に残すことも考えておきたいところです。
2023年に日本口腔衛生学会など4つの学会がまとめたフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法では、6歳以上の方に次の使い方が勧められています。
- フッ化物濃度1,400〜1,500ppmFの歯磨き粉を使う(市販品では1,450ppmFと表示されたもの)
- 量は歯ブラシの毛の部分全体、1.5〜2cm程度
- 就寝前を含めて1日2回磨く
- 磨いた後は軽く吐き出し、すすぐなら少量の水で1回だけ
何度も口をすすぐと、せっかくのフッ化物が流れてしまいます。
はじめは口の中がすっきりしないと感じるかもしれませんが、慣れてしまえば案外気にならなくなるものです。
磨く時間については、歯磨き粉を歯並び全体に行き渡らせるために2分以上かけるのが望ましいとされています。
一筆書きの順番で1本ずつ進めていくと、急いでいるつもりでもたいてい2分は超えますので、時計とにらめっこする必要はありません。
自分の順番がうまくいっているか確かめるには
鏡でのチェックと、歯ブラシの交換日
新しい順番に変えたら、しばらくは鏡を見ながら磨いてみてください。
毛先がどの面に当たっているかを目で確かめると、自分のくせがよく見えてきます。
歯ブラシの状態も、磨き方を映す鏡のようなものです。
8020推進財団は少なくとも1か月を目安にした交換を勧めていて、毎月1日など交換日を決めておく方法も紹介しています。
1か月たっても毛先がまっすぐなら力加減は合格、1か月を待たずに毛先が開くなら力の入れすぎ、というように、交換のたびに自分の磨き方を見直すきっかけになります。
歯科医院で染め出してもらう
いちばん確実なのは、歯科医院で歯垢を赤く染め出してもらうことです。
磨けているつもりの場所がくっきりと赤く浮かび上がり、多くの方が「こんなところに」と声をあげます。
赤く残った場所から逆算して、順番のどこで歯ブラシが素通りしているのかを患者さんと一緒に探すのは、歯みがき指導のなかでも私が好きな時間です。
定期健診のときに「磨き方も見てほしい」と一言添えていただければ、多くの歯科医院で応じてもらえます。
自己流のくせは自分では気づきにくいので、ときどき第三者の目を借りるのがいちばんの近道です。
まとめ
磨き残しは、力や時間が足りないからというより、磨く順番が決まっていないために、同じ場所を毎回素通りしてしまうことから生まれます。
磨きにくい奥歯からスタートし、外側と内側を端から端まで進む一筆書きの順番にすると、歯ブラシの届かない場所はぐっと減ります。
順番が決まったら、鉛筆持ちの軽い力と、境目に向けた毛先の角度も見直してみてください。
歯と歯の間のフロスや歯間ブラシ、すすぎを控えめにしたフッ化物配合の歯磨き粉までを含めて、ひとつの順路です。
最初の1週間は、順番を思い出すのに少し手間取るかもしれません。
それでも2週間もすれば手が勝手に動くようになり、次の健診で歯科衛生士さんに褒められる日がきっと来ます。